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大阪高等裁判所 平成3年(行コ)2号 判決

兵庫県芦屋市三条町二八番一号

控訴人

延原千恵子

右訴訟代理人弁護士

大西佑二

明尾寛

兵庫県芦屋市公光町六番二号

被控訴人

芦屋税務署長 吉田進

右指定代理人

手崎政人

森並勇

田岡勝

森光栄蔵

角佳樹

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、昭和五六年三月一一日付でした昭和五二年分所得税の再更正処分(昭和五五年九月三〇日付でした同年分の更正処分を含む。)並びに昭和五二年分所得税について昭和五五年九月三〇日付及び昭和五六年三月一一日付でした過少申告加算税の各賦課決定処分、昭和五七年二月二七日付でした昭和五三年分ないし昭和五五年分所得税の各再更正処分(昭和五七年一月一三日付でした同三か年分の各更正処分を含む。)並びに同年三か年分所得税について昭和五七年一月一三日付及び同年二月二七日付でした過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏八業目の「譲渡所得について」の冒頭に「昭和五二年分における」を付加する。

2  同四枚目表八行目の「掲げる」と「不動産」との間に「(1)ないし(4)」を挿入する。

3  同四枚目裏二行目から同三行目にかけて「許可を受けたにもかかわらず、」とあるのを「許可を受け別表六(イ)記載の債務を担保するため同記載の抵当権が設定されたが、」と改め、同一〇行目の「延原倉庫株式会社」と「に対し、」との間に「(代表取締役は久雄)」を挿入する。

4  同五枚目表一行目の「内訳のとおり、」と「本件不動産」との間に「昭和五二年五月一一日から同年一二月一四日までの間三回にわたり順次」を挿入する。

5  同六枚目裏一行目の「不動産所得について」の冒頭に「昭和五二年分ないし昭和五五年分の」を付加し、同三行目の「観太郎は、」と「次のとおり」との間に「昭和四四年一月二五日」を挿入し、同末行の「原告ら四名は、」を「相続人は、」と改める。

6  同七枚目表七行目の「一一のとおり)」を「一一のとおりであって計三二筆の土地・建物ほか一点)」と、同一一行目の「原告らから」を「相続人から」とそれぞれ改める。

7  同七枚目裏一行目から同八枚目表末行までの賃貸物件一覧表の順号「一、二、一〇ないし二〇」を「1、2、10ないし20」と改める。

8  同九枚目裏三行目以下で引用する同三八枚目の「別表八」の末行(注)のあとに続いて「なお、便宜上、鈴子がその持分四分の一を延原倉庫に譲渡した物件をAグループ、それ以外の物件をBグループとする。同三九枚目ないし同四一枚目の別表九ないし一一においても同じ。」を付加する。

9  同一一枚目表二行目から同三行目にかけての「原告ら」を「鈴子を除く相続人」と改める。

10  同一二枚目裏四行目の「原告らの所有物」を「鈴子を除く相続人の持分」と改める。

二  控訴人の主張

1  観太郎が生前延原倉庫に賃貸していた土地、建物はその所有する不動産の一部であって、原判決添付の別表八ないし一一に掲記された順号1ないし33の物件の全てではない。そして、本件のように賃貸借物件を含む相続財産の帰属についての争いが未決着であり、賃貸借契約の存否並びに賃料を含む契約内容に争いがある場合には、賃料収入については判決、和解等決着のついた日を収入として計上する課税時期とすべきである。右決着のついた日に課税しても所得税法三六条一項に違反するものでなく、かえって同条の法意に合致する。

2  仮に観太郎の相続人が延原倉庫に対し原判決添付の別表八ないし一一記載の三三物件の全てを賃貸し、賃料債権を有するとしても、その賃料は観太郎の死後相続人と延原倉庫との間で全く話し合いがされていないにもかかわらず、同倉庫の代表者である久雄が固定資産税等の上昇を考慮して適当に増額して供託しているのであって、これをもって控訴人に増額された賃料の収入があり不動産所得があるとして課税することは、不動産所得の解釈を誤った違法処分というべきである。民法二五二条は共有物の利用につき共有者間で意見を異にする場合に、その持分の過半数で決めることを定めたものであって、本件では賃貸借契約の存在や賃料額について共有者間で問題にされていないから、これらの点が同条により有効に決せられたとすることはできない。

また、右のような供託が行われている場合には、相続分についての争いが解決するまでは供託金の還付を受けることができず収入がない。

3  仮に2の主張が認められないとしても、本件のように遺産分割の協議が未了である場合には、控訴人の取得する賃料額は、賃料全額の八〇分の三五ではなく、公売処分におけると同じ四分の一の法廷相続分としてその税額を算定すべきである。

三  被控訴人の主張

1  控訴人を含む相続人が観太郎の賃貸人としての地位を相続によって承継し、不動産所得を得ていることは、控訴人を含む相続人は相続税の修正申告において本件不動産が延原倉庫へ賃貸されたものとして申告していること(乙第一号証)、観太郎は生前不動産所得を申告していること、同人の死後延原倉庫は賃料を供託していることから明らかである。

また、不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、契約又は慣習により弁済期日が定められているものについてはその弁済日、その弁済期日が定められていないものについてはその支払を受けた日である。本件では、控訴人を含む相続人は観太郎の賃貸人の地位を相続によって承継したのであるから、当該不動産所得の総収入金額の収入すべき時期とは観太郎の延原倉庫との賃貸借契約による賃料の支払い日、すなわち、毎月末日である。したがって、本件物件を含む相続財産の帰属をめぐる争いのため各課税時期において本件物件の取得割合が未確定であり延原倉庫が固定資産税等の立替金を控除した残額を供託していても、各年分の不動産収入の発生確定にはなんら消長を来さない。また、右不動産収入は、所得税法三六条一項所定の「別段の定めがあるもの」にも該当せず、このような場合に課税を留保することは納税義務者の恣意を許し修正の期限の徒過を招き、課税の公平を著しく損なうことになる。

2  延原倉庫の賃料供託は賃料増額の意思表示を含むものであり、借地法一二条、借家法七条は賃貸人が増額請求を、賃借人が減額請求する通常の場合に妥当するだけでなく、賃貸人に対し、特段の不利益を与えない限り、賃貸借契約をより円満に存続させようとする賃借人の好意的な意思で増額請求された場合にも適用されると解すべきである。本件賃貸借契約において、延原倉庫は賃借中の本件各物件の固定資産税の増額等を考慮し、賃貸人である相続人に不利益が生じないように供託額を定めている事情が窺えるのであって、控訴人に特段の不利益が生じていないから、増額した賃料の一方的な供託によっても賃料増額の効力が生じるというべきである。しかして、持分の過半数を有する控訴人(持分八〇分の三五)以外の相続人(持分合計八〇分の四五)は、右増額につき異議を述べず、少なくとも黙示の承諾をしているのであるから、共有物の管理行為である本件賃貸借契約の賃料増額の合意は民法二五二条により有効に成立している。

3  相続が開始してから、遺産分割の協議が成立するまでの間、当該相続財産は相続人の共有に属するとされる。その共有持分の割合は法定相続分又は指定相続分により定まるが、本件では相続人間に相続分等をめぐり争いがあり、観太郎の遺産について分割協議は成立していないけれども、当該争いが解決するまでの持分割合として控訴人のそれを観太郎の遺言に基づき八〇分の三五とする相続人間の合意が成立しその割合による相続税の修正申告をしているのであるから、分割協議等により各自の具体的相続分が確定するまでの間、控訴人が当該指定相続分で本件物件を含む相続財産を共有していることとなる。したがって、本件物件から生じた地代家賃も分割協議によって確定するまでの間、右指定相続分の八〇分の三五の割合で控訴人を含む相続人に帰属する。

公売による譲渡所得の帰属割合が四分の一となることについては、公売対象物件に対する控訴人を含む相続人の持分が各四分の一で相続登記されたこと、控訴人は他に相続登記を経由した別土地五筆の持分四分の一を訴外河野利貞へ譲渡したこと、相続税滞納による公売対象物件の差押及び配当計算書に対して控訴人はなんら異議を述べず同意したことから、その部分に限り分割が確定したためである。

以上から、右不動産収入と、第三者へ譲渡された公売物件の譲渡価格とは控訴人を含む相続人の帰属割合を異にするので、それぞれの割合で算出しなければならず、本件不動産所得の金額が将来本件共同相続人間の協議成立により課税標準に異動が生じた場合には、国税通則法二三条二項の規定による更正の請求又は同法一九条二項の規定による修正申告の手続によって是正すれば足りる。

第三証拠

本件記録中の原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四理由

一  当裁判所も、各所得税の更正処分はその後にされた再更正処分により消滅しているから、控訴人が取消を求める本件各更正処分とこれに付随する本件各決定は消滅しているというべく、本件訴えのうち本件各更正処分及び本件各決定の取消を求める部分は対象を欠く不適法なものであり、また、控訴人の昭和五二年分の不動産譲渡所得は五九九四万二二二二円、不動産所得金額(地代、家賃等)は一六七三万三八七八円、昭和五三年分の不動産所得金額は一二八三万一〇三七円、昭和五四年分の不動産所得金額は一〇八一万五七三八円、昭和五五年分の不動産所得金額は九八一万〇五六八円か、これらを上回るものであり、右各金額の範囲内でなされた「本件各再更正」とこれに付随する「本件各再決定」はいずれも適法であると判断するものである。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二七枚目裏八行目の「譲渡所得について」の冒頭に「昭和五二年分における」を付加し、同一二行目の「原告ら相続人は」を「相続人は」と改める。

2  同二八枚目表二行目の「できることに鑑みると、原告は相続人は、」を次のとおり改める。

「できる上、右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第四三号証の一、二、乙第五ないし第八号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第六七号証並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は相続登記を経由した大阪市北区北錦町一番の一ほか四筆の宅地の同人持分四分の一を昭和五〇年七月一一日訴外河野利貞へ一〇億四九〇〇万円で譲渡し、同日付で原因を昭和四七年六月一二日売買予約とする同持分全部移転請求権保全の仮登記を経由し、昭和五六年一〇月二八日その本登記をしたこと、鈴子も昭和五〇年一二月二二日延原倉庫との間で、同人の持分四分の一の相続登記が経由されていた大阪市北区北錦町三四番の一を含む土地七筆と建物三棟につきその持分を譲渡する契約を締結し、昭和五一年二月四日持分全部の移転登記が経由されたこと、星夫の相続税滞納により本件公売対象物件が差し押さえられ、次いで公売処分されたが、控訴人を含む相続人の誰からも異議又は不服の申立てはなかったことに鑑みると、相続人は、」

3  同二八枚目表四行目の「乙第一二号証(覚書)の記載は、」を次のとおり改める。

「乙第一二号証(相続人間の昭和四八年四月一四日付覚書)における『相続した不動産につき相続人が各法定相続分に従った相続登記をするのはあくまで相続税納税のため暫定的なものである。』旨の記載は、前記認定事実に照らすと、」

4  同二八枚目表九行目ないし同末行目までを次のとおり改める。

「控訴人は、控訴人を含む相続税の連帯納付義務ある者に資力がなく、所得税法九条一項一〇号に該当する旨主張する。同条項に規定する『資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難』である場合とは、債務者の債務超過の状態が著しく、その者の信用、才能等を活用しても、現にその債務の全部を弁済するための資金を調達することができないのみならず、近い将来においても調達することができないと認められる場合をいうところ(乙第二号証所得税基本通達昭和五〇年直資三-一一、直書三-一九参照)、成立に争いのない乙第一号証(相続税の修正申告書)によれば、原判決添付の別表七記載のとおり、控訴人は六億五九〇〇万余円、星夫は三億五七〇〇万余円といずれも納付税額を上回る多額の遺産を相続していて、控訴人は前記認定のとおり遺産の一部である土地六筆を訴外河野に一〇億四九〇〇万円で売却しているのであるから、同条に規定する『資力を喪失した場合』に該当せず、本件譲渡所得は非課税所得でないことは明らかである。」

5  同二八枚目裏一行目の冒頭に「昭和五二年分ないし昭和五五年分の」を付加し、同六行目の「旨の」を削除し、同一一行目の「理由がないことに鑑み、」以下同一二行目末尾までを次のとおり改める。

「理由がないこと、いずれも成立に争いのない乙第一八号証の一、二、第一九号証、いずれも証人清水典長の証言により成立を認める乙第九、第一〇号証の各一、二、第一一号証及び同証人の証言と対比し、かつ、成立に争いのない乙第三四号証(昭和五四年二月一六日付控訴人の被控訴人宛手紙)において控訴人自身『一〇億もの多額の税金を納めるためには延納をお願いするしかなく、そのためにはまず担保を入れなくてはならないし、第一回目の納期までに一億ほどのお金を作らなくてはならないので、期限という不可抗力の圧力に屈し私は国税局の課長の勧めもあって、やむを得ず久雄の作成した申告書に合意した』旨述べていることに照らして右供述を措信することはできず、他に右主張事実を認める証拠はない。」

6  同二九枚目表三行目から同一〇行目までを次のとおり改める。

「控訴人は、控訴人を含む相続人が延原倉庫に対し原判決添付の別表八ないし一一に掲記された順号1ないし33物件の全てを賃貸しているのでなくその一部に過ぎない旨賃貸借の範囲を争っている。

しかし、前記当事者間に争いのない被控訴人の本案の主張1(一)、2(一)(3)の事実に、いずれも成立に争いのない甲第二二号証の一ないし一〇、第二七号証、第二九号証、乙第一号証、第一五号証、第二六ないし第二八号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第五八号証、証人延原久雄の証言により成立を認める甲第八四ないし第八九号証、乙第六一号証及び同証人の証言を総合すると、〈1〉観太郎は生前原判決添付の別表八ないし一一の順号1ないし33記載の物件等多数の土地、建物を所有し、そのうち、右三三物件を自己の経営にかかる倉庫業延原倉庫に賃貸していたこと、〈2〉同人が昭和四七年七月一七日死亡したので、控訴人を含む四名の子らが相続により観太郎の右延原倉庫に対する賃貸人としての地位を承継したこと、〈3〉相続人の一人である長男星夫は灘税務署長との間の別件訴訟(神戸地方裁判所昭和五八年(行ウ)第二〇号所得税更正処分取消請求事件)において、観太郎が延原倉庫に対し右三三物件を賃貸し、同人の死亡によりその子である鈴子、星夫、久雄、控訴人の四名が賃貸人の地位を承継したことについては特に争わず、ただ右相続により取得した権利義務の割合及び賃料収入を得た時期等を争うに止まっていたこと、〈4〉延原倉庫は、観太郎の死後右三三物件をその相続人である控訴人ほか三名から賃借しているとして、その賃料より固定資産税等の立て替えた経費を差し引いた残額を大阪法務局へ供託して現在に至っていること、〈5〉その賃貸の範囲、賃料、対象物件の固定資産税額は原判決添付の別表八ないし一一記載のとおりであること、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、控訴人は昭和五二年ないし昭和五五年当時も延原倉庫に対し右三三物件を賃貸していたと認めることができ、甲第六二号証の記載及び原審における控訴人本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用することができない。」

二  控訴人の主張について

1  控訴人は、本件のように賃貸借契約の内容に争いがある場合には、判決、和解等により決着がついた日をもって賃料収入のあった日とし課税時期とすべきである旨主張する。

一般に所得税に関して課税対象である収入の原因となる権利が確定する時期をもって課税するのが公平を期する上で妥当であり、賃貸人である共同相続人の間に相続分について争いがあり、その結果個々の共同相続人に対して支払うべき賃料額が不明確であって、賃借人がこれを債権者不確知の一場合であるとして賃料の全額を供託しているときは、徴税政策上の技術的見地から契約又は慣習により定められているものについてはその支払日、それが定められていないときにはその現実に支払いを受けた日をもって課税するのが相当である。これを本件についてみるに、控訴人を含む相続人らは観太郎の賃貸人としての地位を相続によって承継したのであるから、当該不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、観太郎の延原倉庫との賃貸借契約による賃料の支払日となるところ、乙第一七号証の一ないし五、甲第二二号証の四ないし一〇によれば、その支払日は遅くとも毎月末日であると認められるから毎月毎に支払い日が到来し、賃料債権が発生していることとなる。したがって、控訴人の延原倉庫に対する賃料債権は、前年四月一日から当年三月末日までの分が、支払日である当年三月末日に所得税の課税対象となるべき収入の原因となる権利として確定したものというべきである。

2  次に、控訴人は、延原倉庫において本件賃借物件の賃料を控訴人との合意に基づかず一方的に増額賃料を供託しているのに、被控訴人はその増額賃料を本件不動産所得として課税したのは違法である旨主張する。

しかし、当事者間に争いのない被控訴人の本案の主張2(一)(1)の事実のとおり、控訴人は観太郎の遺言書に基づき久雄の申告に合わせて持分八〇分の三五とし、星夫、鈴子はそれぞれ持分八〇分の一九、久雄は持分八〇分の七として修正申告をしたのであって、控訴人の相続分(遺産分割前の共有持分)は過半数に満たないことが認められるところ、前掲甲第二二号証の一ないし一〇、乙第二六号証及び証人延原久雄の証言並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人以外の本件賃貸物件の共有持分権者である久雄、星夫及び鈴子(法定代理人渡辺佳代子)は右供託された賃料の増額について特に反対することなく暗黙のうちに承諾していたものと認められる。もっとも、前叙のとおり、控訴人は訴外河野に対し相続した遺産のうちの不動産の持分四分の一を、また、鈴子は同九筆の不動産の同持分四分の一を延原倉庫に譲渡しているけれども、右持分の譲渡によって本件各賃貸物件の賃料増額の合意の正否に関し、持分の割合が変更されたことを認める証拠はない。してみると、共有物の管理行為である本件賃貸物件の賃料増額は、過半数の持分を有する他の共有者による承諾によって有効に成立したというべきであって、他に右結論を左右するに足る事情は認められない。

3  さらに、控訴人は、仮に本件賃貸借契約の範囲、賃料が被控訴人主張のとおりであるとしても、遺産分割協議が未成立であるから控訴人の取得する賃料額は全賃料の四分の一とすべきである旨主張する。

しかし、前記認定のとおり、相続した不動産の持分四分の一の譲渡事実にもかかわらず、本件賃料につき持分の変更がされた証拠はない上、弁論の全趣旨(乙第一六号証、同第六六号証によれば、相続人四名間においてその指定相続分につきかねてより争いがあったところ、控訴人と鈴子、星夫、久雄ほか数名との間の別件訴訟(大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第六八一一号事件等)の第一審判決で、控訴人の右指定相続分は八〇分の三七であると認定され、その控訴審判決(大阪高等裁判所昭和五八年(ネ)第一八〇一号事件等)及び上告審判決(昭和六一年(オ)第一三〇四号、平成二年(オ)第一一八八号事件)においても第一審の判断が維持されたことが認められる。)によれば、控訴人の取得する賃料額を賃料全額の四分の一であるとしてその税額を算出したことは合理的なものというべきであって、控訴人の右主張は採用することができない。

そうすると、被控訴人の控訴人に対する本件各再更正及び各再決定はいずれも適法であって、控訴人の本件請求は理由がない。

4  以上によれば、本件訴えのうち、昭和五二年分ないし昭和五五年分の各所得税の更正処分及び同処分と同日にされた過少申告加算税の各賦課決定処分の各取消しを求める部分を却下し、その余の請求については棄却すべきところ、これと同旨の原判決は正当で本件控訴は理由がないから、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田秀文 裁判官 鏑木重明 裁判官坂元倫城は転勤のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 吉田秀文)

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